いきいき終活プラン
相続とは、亡くなった人の財産を、特定の人が譲り受けることをいいます。財産を譲る人(亡くなった人)を「被相続人」、財産を譲り受ける人を「相続人」といいます。
◎法定相続人
相続人には、2種類あります。被相続人が遺言書で指定した相続人と、遺言書がない場合の法律で定められている「法定相続人」です。法定相続人は、相続の優先順位や相続割合が法律で定められています(下表)。
【法定相続人の優先順位と法定相続割合】
優先順位 | 相続人 | 法定相続割合 | |
---|---|---|---|
配偶者<妻、夫>がいる人が亡くなった場合 | 最優先 | 子のない配偶者 | 1 |
第1位 | 配偶者 | 1/2 | |
子(孫) | 1/2 | ||
第2位 | 配偶者 | 2/3 | |
父母(祖父母) | 1/3 | ||
第3位 | 配偶者 | 3/4 | |
兄弟姉妹(甥、姪) | 1/4 | ||
配偶者<妻、夫>がいない人が亡くなった場合 | 第1位 | 子(孫) | 1 |
第2位 | 父母(祖父母) | 1 | |
第3位 | 兄弟姉妹(甥、姪) | 1 |
※( )内は子、父母、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合に代わって相続人になる人です(代襲相続)。
※子、父母、兄弟姉妹が複数人いる場合、同順位者間で均等按分します。順位が上の人がいる場合、それより下位の人は法定相続人になれません。
相続人ではない親族の貢献が考慮されるように(2019年7月1日~)
被相続人に対して無償の介護や看護の貢献があった場合でも、これまでは相続人の行為に対しては相続分の上乗せが認められていましたが(寄与分)、相続人以外の行為に対しては認められていませんでした。2019年7月1日からは、相続人以外の親族が介護や看護を行った場合は相続人に対して金銭を請求できるようになります(特別寄与料)。 このことにより遺産のことで不利益を被りがちであった長男の妻や内縁の妻などにも配慮がなされることになります。
負の財産も相続の対象に
相続できる財産は必ずしも正(プラス)の財産ばかりとは限りません。借金等の負(マイナス)の財産も相続の対象となります。相続人が不利益を被ると判断した場合は、「相続放棄」や「限定承認」を選択することもできます。
<相続放棄>
プラスの財産も含めてすべての財産の相続を放棄することをいいます。相続人ごとに選択できます。
<限定承認>
マイナス分をプラスの財産で弁済して、なおプラスの場合のみ相続を承認する意思を表示することをいいます。相続人全員の合意が必要です。
◎相続の対象となる財産
など
◎遺留分について
相続をすべて被相続人の遺言書に従ってしまうと、不利益を被る人が出ることがあります。たとえば、妻子がいるにもかかわらず、他人である知人のAさんに全財産を譲るというような遺言書を遺した場合です。このような場合に効力を発揮するのが「遺留分」という考え方です。法定相続人に対しては、法定相続分の最低割合が法律で保障されています(下表)。もし遺留分を侵害された場合は、そのことを知ったときから1年(かつ相続開始から10年)以内に遺留分を侵害している人へ減殺の請求をすることができます。ただし、兄弟姉妹(甥、姪)には遺留分はありません。
【遺留分】
法定相続の優先順位 | 相続人 | 遺留分 | |
---|---|---|---|
配偶者<妻、夫>がいる人が亡くなった場合 | 最優先 | 子のない配偶者(妻、夫) | 1/2 |
第1位 | 配偶者(妻、夫) | 1/4 | |
子(孫) | 1/4 | ||
第2位 | 配偶者(妻、夫) | 1/3 | |
父母(祖父母) | 1/6 | ||
第3位 | 配偶者(妻、夫) | 1/2 | |
兄弟姉妹(甥、姪) | なし | ||
配偶者<妻、夫>がいない人が亡くなった場合 | 第1位 | 子(孫) | 1/2 |
第2位 | 父母(祖父母) | 1/3 | |
第3位 | 兄弟姉妹(甥、姪) | なし |
遺留分を侵害された人は相続人に金銭の支払いを請求できるように(2019年7月1日~)
これまでは遺留分を侵害された人が遺留分を請求する場合、財産そのもの(現物)で返還することが原則とされてきました。2019年7月1日からは、侵害されている遺留分については金銭支払いを請求できるようになります。
◎遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、遺産分割の内容を記し、相続人全員が合意したものであることを証明するものです。
相続が発生したら、相続人同士で遺産の分け方について話し合い、その結果を遺産分割協議書に記載します。遺産分割協議書には相続人全員が署名して実印を押印し印鑑証明書を添付します。
※遺産分割協議書の作成に期限はありませんが、相続税を申告する場合は遺産分割協議書の添付が必要ですから、10カ月以内に作成します。
預貯金の凍結と遺産分割協議書
親族が亡くなって、葬儀代などの資金繰りに亡くなった人の預貯金を下ろそうとしても、死亡と同時に口座は凍結されますので下ろせません。
相続財産を特定の人が使い込んでしまうことは、いかなる理由があるとしても不公平が生じるからです。
亡くなった人の預貯金を使うには、必ず「遺産分割協議書」を金融機関に提出して名義変更を行うことが必要です。
つまり、亡くなった人にどれだけの預貯金が残されていてもすぐに使うことはできません。そこで、相続の対象ではなく、受け取る人固有の財産と見なされる「生命保険」を有効活用することを検討されてはいかがでしょうか。
【相続に関する手続に使う証明書として効力】
作成された遺産分割協議書は相続手続に関する
証明書となります。例えば、不動産や預貯金等を
被相続人から相続人に名義を変更するときには、
誰がその遺産を受け継ぐのかを証明する必要があ
りますから、遺産分割協議書を提出しなければなり
ません。
【相続人相互の契約書として効力】
相続人全員の合意・押印のもとに作成されたものですから、後々異議を唱える人が出てきたとし
ても、裁判等で有効な証拠となります。
【遺産分割協議書が不要な場合】
相続が発生して遺言書もない場合、相続人が2人以上いれば誰がどの財産を相続するのか決めなければいけません。
【遺産分割協議書の形式】
遺産分割協議書に形式はありませんが、必ず相続人全員が参加した協議の結果を文書に記し、全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付します。
◎相続税について
一定額以上の財産の相続には「相続税」がかかります。
相続財産は、必要経費(葬儀費用や埋葬料など)を除いた額が相続税の課税対象となります。生命保険などの死亡保険金、勤務先の死亡退職金なども課税対象となります。ただし、基礎控除がありますので、遺産総額が基礎控除額以下なら申告・納税の必要はありません。
基礎控除を超えた場合は相続が発生した日から10カ月以内に申告・納税することが必要です。
【相続税の計算】
各相続人の相続税は、全員の課税対象となる相続額を合計し個人の相続分で按分してから、それぞれの納付額を算出します。
①各相続人の正味の課税対象額を計算します
控除できる必要経費
・埋葬等にかかった費用
・遺体や遺骨の搬送にかかった費用
・葬儀や、お通夜、納骨等にかかった費用
・葬儀等で寺に支払った費用
控除できない費用
・香典返しにかかった費用
・墓石購入費用、墓地使用料などの費用
・初七日や四十九日などの法事にかかった費用
②相続人全員の課税対象額を合計します
基礎控除額
基礎控除額
= 3,000 万円 +(600
万円×法定相続人数)
※相続税額が基礎控除額以下ならば、相続税課税の対象にはなりません。
例:相続人が妻と2人の子の場合
基礎控除額=3,000 万円+(600
万円×3) = 4,800 万円
③各相続人の課税相続額を計算します
各相続人の相続税額の計算例
法定相続により遺産を妻と2人の子で分割し、課税遺産総額が4,000
万円のとき
妻の課税相続額:4,000 万円 × 1/2 =2,000 万円
子1の課税相続額 :4,000 万円 × 1/2 ×1/2 =1,000 万円
子2の課税相続額 :4,000 万円 × 1/2 ×1/2 =1,000 万円
④各相続人が納付する相続税額を計算します
<相続税率> ※2019年度
法定相続分に応じた取得金額 | 相続税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
【相続税の申告・納税の流れ】
◎配偶者には相続税額軽減の特例制度
配偶者の相続分には、1億6,000 万円または法定相続分のいずれか多い額までは非課税になります(配偶者の相続税額軽減)。この制度を利用すれば、基礎控除額を超える相続でも税金がかからない場合がありますが、必ず申告が必要です。
なお、その配偶者が亡くなって二次相続が発生した場合、軽減措置はありませんので注意が必要です。
◎贈与について
贈与とは、生前に子や孫に財産を譲り渡すことをいいます。
相続税の対象となる財産を、生前のうちに子や孫などに移転することができます。相続財産を受け取った相続人が相続開始前3年以内に贈与を受けていた場合は、その贈与額を相続財産に加えて相続税を計算し、すでに納付した贈与税額は、その人の相続税額から差し引かれます。
婚姻期間20年以上の夫婦間で自宅を贈与した場合、遺産分割の計算から外れるように(2019年7月1日~)
婚姻期間が20年以上ある配偶者に自宅を贈与した場合、現時点では自宅は遺産分割の計算の対象となりますが、2019年7月1日からは計算対象から外れるようになります。これにより、自宅を贈与された配偶者は、より多くの遺産分割を受けることが可能になります。
【贈与税に係る税金】
①暦年課税
一人の人がその年の1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません(この場合、贈与税の申告は不要です)。
<特例税率>
父母や祖父母からその年の1月1日に20歳以上になっている子や孫などへの「特例贈与財産」に係る贈与税の計算に用います。
*2019年度
基礎控除(110万円)後の 課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
<一般税率>
上記の特例贈与財産以外の「一般贈与財産」に係る贈与税の計算に用います。
*2019年度
基礎控除(110万円)後の 課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
②相続時精算課税
60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子や孫への贈与について利用できる制度です。子や孫は贈与者(父母や祖父母)ごとに、この制度を利用するかどうか選択することができます。特別控除額を利用できますので比較的多額の贈与がしやすくなります。
「相続時精算課税」を選択すると、贈与者ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して贈与税(20%)がかかります。贈与者が死亡して相続が発生した場合は、贈与財産とその他の相続財産を合算して相続税を計算し、すでに支払った贈与税は相続税額から控除します。
なお、この特別控除額は贈与税の期限内申告書を提出する場合のみ控除することができます。
また、前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります。
※通常の贈与額の基礎控除額(年間 110万円)は利用できなくなります。 また、一度この制度を選択すると途中で取りやめることはできませんので、ご注意ください。
【贈与税の申告】
その年の1月1日~12月31日までに贈与を受けた人は、翌年2月1日~3月15日の期間に暦年課税と相続時精算課税に応じて、住所地の税務署に贈与税を申告します(原則、土・日曜日・祝日は除く)。
◎生命保険の死亡保険金と税金
相続のトラブルを避け、特定の人に確実に財産を残すことができます。受取人は他の財産について相続放棄や限定承認をした場合でも生命保険の死亡保険金は受け取ることができます。死亡保険金は預貯金と異なり、受取人固有の財産となりますから、遺産分割協議を行わずに比較的早期に受け取ることができます。
【死亡保険金にかかる税金】
生命保険は被保険者(死亡保険金の対象者)と受取人の関係により税金の種類が変わってきます(下表)。
契約者=被保険者の場合、受取人は相続税を、契約者=受取人の場合、受取人は所得税と住民税を、契約者・被保険者・受取人がそれぞれ異なる場合は受取人は贈与税を支払います。一般的に贈与税の税率が最も高くなっています。
死亡保険金にかかる相続税は、500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
となっており、非課税限度額以下の場合は、相続税がかかりません。
<死亡保険金にかかる税金の種類>
*例)A=夫・B=妻・C=子
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
ケース1 | A | A | B | 相続税 |
ケース2 | A | B | A | 所得税・住民税 |
ケース3 | A | B | C | 贈与税 |
◎不動産の相続
土地や家屋を相続した場合は、相続が法定相続でも遺言書による相続でも、所有者を移転する登記を行う必要があります。登記が済んでいない不動産は売却することができません。 登記の申請は複雑なので、専門家(司法書士←日本司法書士連合会)に依頼するとよいでしょう。相談は法務局まで。