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【旅と日本の器②】九谷焼をめぐる旅〜中編・九谷焼の今を探る〜

前編では、そのルーツや歴史を探り、その重みや魅力についてお伝えしました。今回は制作現場を訪ねることで、九谷焼の現状や将来への思いを聞いてみたいと思います。

九谷焼のルーツ(歴史)を探った前編についてはこちらの記事をご覧ください。

はじめに

今回は、「九谷焼の今」を探るため、能美市にある、九谷焼の技術を教える研修施設「九谷焼技術研修所」を訪問。職員の藤原さんに九谷焼について色々お話しを伺いました。
また、九谷焼技術研修所の在校生・山浦さん、同所の修了生で同敷地内にある支援工房を利用する佐藤さん、同所の卒業生で嘱託職員として働く半田さん、3人にも「九谷焼との出会い」や、「今後について」お話を聞きました。九谷焼との関わりから「新たな九谷焼の魅力」がリアルに見えてくるはずです。

石川県立九谷焼技術研究所を訪問
技術を繋ぐ在校生・卒業生が語る九谷焼の魅力とは?
食べて愛でる

石川県立九谷焼技術研究所を訪問

技術指導課長・藤原さんに聞く九谷焼の実情

九谷焼の今」を探るため、能美市にある、九谷焼の技術を教える研修施設「九谷焼技術研修所」を訪問。職員の藤原さんに九谷焼について色々お話しを伺いました。
九谷焼技術研究所で技術指導課長を務める藤原さん。

九谷焼の今(現状)について聞かせてください。
九谷焼は有田焼などと違って、色々な画風が点在しています。加賀で言えば、古九谷、吉田屋、 金沢には春日山窯、ここ能美市では、赤絵・九谷庄三という画風が確立しています。
画風が色々あるなかで、最近卒業生を見ていて感じるのは「伝統と革新」。
この研修所で学んだ伝統的な技法や表現方法をベースに、日常使いできる、若者ウケする色使い で仕事をする卒業生がどんどん増えてきています。人によって画風が異なるのも九谷焼の特徴。 多様化する九谷焼を間近で見て、今後ますます九谷焼は変化していくのだろう、と感じています。
卒業生の進路にはどんな選択肢がありますか?
大きく分けて 3 パターンあります。まず、『デパートや百貨店などに流通をもつ問屋での仕事』、 『問屋から発注を受けて、成形、絵付けを専門とする窯元』、『分業せず成形から絵付け、流通、 販売を一貫して行うメーカー』です。

最近は、どこにも属さず作家として活躍する人も増えてきました。インターネットや SNS の普及 で、流通ルートを持たずとも販売できる可能性が広がったためです。“産業九谷”ではなく、美術 工芸的な一品制作活動の道になります。
九谷焼のカタログギフトや卒業生がイベント出店するパンフレットなどを色々見せていただきながら卒業生の進路について解説いただきました。

将来の選択肢が広がったからこそ、九谷焼は変化しつつある、と?
そうですね。当研修所としては、産業九谷の継承という点も考えていかなければいけません。 作家の道を選ぶ卒業生が増えているため、周囲からは「作家を育てているのか?」と厳しい意見もいただくのですが、そんなつもりはなく、時代の流れがそうさせた部分も大きいです。
自己流通ルートの確立がしやすく、一個人が何を仕事にし、どう見せたいかを自由に行動できる現代においては、従来通りの産業構図に頼るだけでは生き残れません。変化を受け入れ、その上でどう対応するか、それが問われる時代に突入したのだと実感しています。また、職人の高齢化、後継者問題も大きな課題。九谷焼の業界全体の底上げをしていくことが私達の課題です。
研修所のシステム、カリキュラム内容を教えてください。
まず、初心者向けの本科(2年制)と、本科卒業後にもっと勉強したい人が進む研究科(1年制)があり、さらに、九谷焼業界に従事する方を対象とした実習科(1年制・週1)の3コースがあります。
カリキュラム内容は、造形や絵付けといった技術習得をメインに、平面構成や色彩学など、デザイン要素を含んだ講義も多く取り入れているのが当研修所の魅力です。というのも、例えばろくろ成形ならそれだけを朝から晩までひたすら…という教え方の学校もあって…。特化して教えることで卒業後の即戦力は高いのですが、何かあった時の対応力は弱く、潰しが利かない、と私は考えます。
焼き物以外の知識まで幅広く教えることは、柔軟に対応できる人材を育てたいという想いからです。最初は回り道に見えても、長く続けた先にはその研修生の人生に必ずプラスに働くと信じているので。卒業生を見ていてもそれは確信に変わりつつありますね。変化の激しい時代において、即戦力だけではない応用力を備えることもこの道を長く続ける秘訣に違いありません。
実習科の授業風景。煎茶碗を成形中。1つ作り上げるのにかかる時間は約3分だそう。最後に糸でサッとカットして出来上がりです。

なるほど、深いですね。
この研修所にはどんな目的をもって皆さん学びに?
学ぶ目的はそれぞれですが、本科生の多くは「絵付けを学びたい」とやって来ます。九谷焼の魅力は何と言っても色彩豊かな絵付けですから。
年齢は20代から30代が多く、毎年、地元6:県外4の割合。女性が圧倒的に多いですね。
最近、企業訪問をする学生が増えています。こちらが求人紹介する前に、自主的に九谷の業界を見て周るんですよ。自発的に就職を決めた学生と、求人票で決めた学生との3〜5年後をみると、圧倒的に自分の足で歩いて、希望の就職先に話し込んで決めた研修生の方が長続きしています。ですので、私達職員も「自分の足で、目で、現場を見ておくように!」と伝えています。
五彩と呼ばれるカラーから色の表現豊かな九谷焼。焼成するとどんな発色になるのか、色見本的なものも展示されています。

最後に、研修所がこの業界で担う役割は何だと考えますか?
卒業生は「我々の名刺だ!」と歴代の所長に言われました。その通りだと思います。在校生や卒業生の頑張りがこの産業の今後を支え、作っていくわけですから、いい人材を輩出していくことが私達の責務です。
今は器好きな人が増え、SNSでちょっとしたブームにもなっていますが、それはある一側面でしかありません。現実は厳しい。「好きだから続ける」という気持ちを支えにこの業界で続けている人も少なくありません。それぞれの自活力を養い、細く長く継続できる人材を育てていきたいと考えます。
またここ数年、九谷焼は新たな取り組みにも積極的です。例えばウルトラマンやドラえもんのフィギュア販売もその1つ。それを通じて、海外の方に九谷焼を知ってもらう機会も増えました。卒業生には、独自ルートを開拓し、イベント出店をしながら、作家として認知される人も増えています。これも九谷焼の新たな在り方。また、メーカーは、独自手法で新しい九谷焼の世界を魅せています。

こんな風に今までの技術を継承しながら新しい九谷焼を生み出す、世間に知ってもらい、手に取ってもらう機会を増やしていくことのできる人材を今後も育てていきたいです。
九谷焼×ウルトラマンのコラボ商品。絵付け前(左)と絵付け後の完成品画像(右)。作家によって出来上がりも異なる。絵付けの個性もまた味わい深い。

■石川県立九谷焼技術研修所
九谷焼の中心地でもあり、九谷焼のことを知りたければぜひ訪れたい場所が『九谷陶芸村』。毎年11月上旬には、『九谷陶芸村まつり』を開催。この敷地内には、九谷焼を見る、知る、体験する、学ぶことができるいくつかの施設『九谷焼資料館』、『九谷焼陶芸館』『浅蔵五十吉美術館』、『九谷焼技術研修所』があります。今回は、九谷焼の技術を習得したい、学びたい人が県内外から訪れる研修施設『石川県立九谷焼技術研修所』を取材しました。周囲には、「自立支援工房」や九谷焼の器が購入できる「ギャラリー彩」も。
※石川県能美市泉台町南2番地/0761-57-3340
※開所時間 平日8:30〜17:15(随時見学可能。事前に問い合わせることをおすすめします。)

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技術を繋ぐ在校生・卒業生が語る九谷焼の魅力とは?

山浦早織さん(本科・2年生)

山浦さんはかつて長野県で公務員の仕事をされていたそう。陶芸は趣味。ところが、ある出来事をきっかけにもっと勉強したいと思って九谷焼技術研修所で学ぶことを決意。あるきっかけとは?
九谷焼技術研究所で学ぶ山浦早織さん。

九谷焼技術研修所に来られた経緯は?
金沢に友人と遊びに来た時、お店で、九谷焼作家の牟田陽日さんの器を見て「かわいい!」と感動して、買って帰ったのがきっかけです。勝手ながら九谷焼って古典的なイメージを持っていたのですが、現代作家さんのものは色々な絵付けがあってステキだな!と。
最初は仕事をしながら陶芸をしていましたが、だんだん本気で勉強したくなり、やるなら感動した器の産地がいいな、と調べてこの研修所を見つけました。他は、経験者じゃないと入学できないなど敷居が高かったのですが、ここは未経験からでも勉強できて、2年間なので、それなら頑張れると思い入学を決意しました。
九谷焼を学んでみてどうですか?
難しさは感じますが、授業全てが楽しいです。この仕事で生計を立てていくのは厳しいかもしれませんが、楽しいのでこれで生きていければいいですよね。将来は、成形から絵付けまで全てを一貫制作できる会社に就職できればいいなと思っています。

佐藤剛志さん(支援工房九谷の個室工房を利用)

九谷焼技術研修所のすぐそばに、『支援工房九谷』があります。H13年に立ち上げられた九谷焼産業を担う人材の自立支援する機関で、業界で数年間以上従事経験がある人が独立目的で利用できる工房です。いくつかある個室工房のうちの1つを利用する佐藤さんにお話しを伺いました。
支援工房久谷で九谷焼を制作する佐藤剛志さん。

九谷焼を始めた経緯は?
20代の頃は、全然違う職種でサラリーマンをしていました。手に職をつけたいと、探していた求人広告でたまたま目にしたのが窯元での仕事。やってみようと、ひとまず飛び込んだ業界でした。だから焼き物にすごく興味があった、というわけではなかったです。いざ働き始めてみると、自分が何も知らないことに気付き、九谷焼技術研修所の実務者コースに通いながら知識を身に付け、仕事場でも学んで…と当初はそんな感じでした。
20年窯元で働かれ、独立前になぜこの工房へ?
自立支援工房に入るメリットはいくつかあって、まず設備投資がかからないこと、そして販売ルートの確立です。九谷焼にとってここは一等地。すぐ側には問屋もあり、ここで作業をしていれば、自ずと色々な人が出入りするため、ルートを開拓しやすいです。県外からギャラリーのオーナーさんや、百貨店のバイヤーさんも訪ねてくるので、そこで名刺交換をして直ルートもできてくる。ルートを持ったまま独立すればスムーズです。自分の家で窯を作り、「さぁ九谷焼を作りました!」と言っても誰も来ませんからね(苦笑)。お蔭様で今では様々な方面に販売ルートができたので、商品の受注を受けて制作する日々です。
九谷焼の魅力とは?
断然「上絵」です。焼きあがる度に「絵柄が生まれ変わった!」と感動しますよね。焼く前の色からは想像できない色に変化する、それが面白い。
独立後の展望は?
ここで築いた販売ルートをベースに、独立しても手が止まらない程度に続けていけたらな、と思います。同時に、育成を考えていく世代かなとも感じています。
私が九谷焼を始めた20年以上前は、いわゆる職人が本当にたくさんいらっしゃって。私達の仲間(同期)も多くいたけれど、バブル崩壊、リーマンショックの煽りを受けてみんな辞めていきました。今では僕らの年代(50代)がほぼいない状態。一方でここの研修所に学びにきているような若い子は増えている。
会社で例えるなら、定年間際の世代と20代の新入社員がいっぱいいて、バリバリ働くはずの40歳代、50歳代がいない、といった具合。年配層と若手を繋ぐ役割を自分達が担っていかなければいけないと実感しています。個人個人の作家は多い、けれど産業の方に出ている人は少ない。これも九谷が抱える課題。そういうことも踏まえて、独立したら若手育成にも力を注げられるぐらいの自分でありたいなと思います。
工房内の様子。ろくろや乾燥させる棚など備品・道具一式が揃っている。



(左)お皿が焼成前。焼き上がると湯のみのカラーリングに仕上がる。



佐藤さんの工房に手伝いに来ているアルバイトの西田さん。下絵の作業中を撮影。


半田濃史さん(九谷焼技術研修所の嘱託職員)

28歳の時に焼き物を勉強しようと神奈川県から九谷焼技術研修所へ。その後、金沢卯辰山工芸工房で3年間、デザイン事務所1年を経て、現在は自分の作品を作りつつ、九谷焼技術研修所の嘱託職員として働く半田さん。九谷焼の魅力についてまた新たな目線で語っていただきました。
九谷焼技術研究所で嘱託職員として働く半田濃史さん。

九谷焼を始めた経緯は?
幼少時にシンガポールで生活していた経験から、日本の文化や伝統的なものを海外に発信できる仕事に就きたいという想いが根底にあり、じゃあ焼き物をやろうと決めた時、思い出したのが昔お土産でもらった九谷焼の吉田屋風のぐい呑みでした。緑や紫、黄色で彩られた見た目がすごく印象に残っていて。そこで自分なりに調べてみると、色彩表現の幅が豊かで魅力的。そういった理由からここ研修所に行くことを決めました。
九谷焼の魅力とは?
『技法がたまりにたまっていること』です。専門的な話になりますが、焼き物は原材料が土(陶器)か石(磁器)。石のルーツは中国。そこから朝鮮半島、九州の有田に渡り、京都に行って、次が九谷。そこから次は太平洋がドンとあるのでアメリカに渡っていない。さらに、九州や京都で途絶えてしまったマニアックな技法が九谷で留まり、長い年月をかけて蓄積されてきた経緯があります。近年では、そういった伝統的な技法を必要としない焼き物が世間一般に求められることもあり、技術伝承が危ぶまれもします。ですが視点を変えれば、それを利用して面白いことができるチャンスの多い場所だなとも僕は思うんです。
今僕はいわゆる伝統模様を高温で焼き動かすことで違う模様に変化する〜というのを色々試して作品を作っているところです。今後は自宅に窯を設けて、九谷焼の技法を利用してオリジナリティある作品を作っていきたいなと思っています。
色々な技法があるから、変わったことをする人が周りにもいて、同じ作り手としては、とても刺激的な場所。それが九谷の強みなんじゃないかな、とも感じています。
青の染付が美しい半田さんの作品。(左)濃絞手壺、(右)骨絞手壺

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食べて愛でる

九谷焼技術研究所から車で5分

■能美市ふるさと交流研修センターさらい
九谷焼研修所から車を走らせること5分ほどの距離にある、「能美市ふるさと交流研修センター さらい」。天然温泉もありリーズナブルに利用できる宿として人気。そのなかの食堂棟でいただけるランチがおすすめ。九谷焼を象徴する五彩の器で料理が提供されるので、九谷焼を存分に愛でながら地元の食材を使用した料理を楽しむことができます。
※石川県能美市石子町ハ147-1/0761-57-1212
※休館日 水曜日、年末年始
※ランチ11:30〜14:00 (夕食は予約が必要)

ちょっと足を伸ばして…

■COCKTAIL BAR SWING(カクテルバースイング)
九谷焼研修所から車で30分ほど。加賀温泉駅から15分ほどの場所にある山代温泉郷にある飲食店。店内にはピアノが置かれ、カウンターとソファ席があり、落ち着いた雰囲気のなかでお酒と料理が楽しめるカクテルバーです。隣には「GALLERY・PANNONICA」を併設。カフェタイムからオープンし、夜は照明を落とした大人ムード漂うなかで、オーナーバーテンダーの東さんが作る一杯と共に、九谷焼の器に盛られた料理をいただくことができます。洋食と九谷焼の見事なコラボも必見。また、ディナータイムには、音楽生演奏(ライブ)を開催することも。ギャラリーでは石川県で活動する現代作家の商品などを販売すると同時に、展示会も定期的に開催しています。
※石川県加賀市山代温泉通31-4 楽歩館1F/0761-77-5772
※定休日:火曜、不定休
※営業時間:13:00頃〜25:00
 (19:00〜※バーチャージ1000円)
田中恵子(ライター/フードコーディネーター)
編集プロダクション、WEB制作会社を経てフリーランスに。フード、ファッション、介護などの媒体で、取材・執筆・編集を担当。食べることが大好きで、フード系の取材は多い月で30件にも及ぶ。最近では横浜の農を普及する「はまふぅどコンシェルジュ」を取得。月刊誌「カフェ&レストラン」(旭屋出版社)では、野菜がおいしいお店を紹介する『VegiLove』を連載中。
http://www.asahiya-jp.com/cafe_res/

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