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【食を楽しむ①】食レポ〜昔ながらの定食屋


あなたは今日、お昼に何を食べましたか?
外食する人、自分で作る人、買ってくる人、スタイルは人それぞれですが、「安くて早くてうまい」そんな言葉がいつしか日本人のランチの理想になっていました。さらに健康への関心度が高まる昨今、主食・主菜・副菜・汁物でバランスのとれた1食として「定食」は注目されることが多くなりました。
どんなに忙しい中でも、お昼ぐらいはホッとしたいもの。お昼がまだという方、「日本人はやっぱり定食」ではないでしょうか?

1.ランチに情熱をかける

サラリーマンの楽しみのひとつと言えば、ランチ。むしろ私にとっては何よりの楽しみと言っても過言ではなかった。昼時近くなると、「今日はどこ行こうかな〜」と思案しながら、自分の食べたいジャンルにあわせて、いくつかお店をピックアップ。お目当てのメニューが早く売り切れるお店にいたっては、仕事を急ピッチで終えるためのスイッチを加速させる。そんな風にランチには人並みならぬ情熱をかけていた(笑)。

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会社から飛び出し、外の空気を吸いながら、お店に向かう道すがらも何だか楽しく、さらにご飯が目の前に運ばれ、口に入れた時の幸福感。
時には友達と、時には上司や後輩と、時には一人で…、外出ランチは、働く人にとって実に濃縮された時間だと私は思っている。
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かつて、表参道に面したオフィスに勤務したことがあった。言わずと知れたオシャレスポットで、人が昼夜問わず集まるエリアだったが、ことランチに関しては物足りなさを感じていた。
そのためこの店は美味しいなと思えば、すかさず脳内にインプット。半年ほどたつと、イタリアンならここ、カフェ飯ならここ、とジャンル毎にいくつかお店を絞ってローテーションするようになった。
それらはどこも満足のいくものだった。ただ、不満なことがひとつ。どうしても美味しいと思える魚定食に出会えないことだった。

■昼食は500円未満で
某インターネット調査によれば、昼食にかける費用は約6割の人が500円未満と回答(外食、自炊、購入すべてを含む)。
昼食にかける時間は約8割が30分未満と回答しており、15分未満という人は5割近くにもなる。
その内容は、麺類、丼物などの単品が3割なのに対して、「ご飯とおかず」スタイルが7割と圧倒的に多い。
やはり昼食は、「安くて」「早くて」、でも「基本の品数は食べたい」ということだろうか。

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2.衝撃的な出会い
魚定食が食べたい、日々そんな思いが募るなか、衝撃的な出会いを果たす。 ある男性サラリーマンのブログのなかに『ここの定食は絶品』という言葉を発見。店名が明記されてあったので、次の日のランチに意気揚々と向かってみると、一見、食処には見えないたたずまい。『おいでませ◯◯』と看板にあったのでここに間違いない。 恐る恐るドアを開けると、なかにはこじんまりとした定食屋がちゃんと存在していた。

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女将さんであるおばあちゃんと、息子さんらしき男性(体調を崩されて今はおばあちゃんだけ)の2人で営んでいる店だった。
カウンター席に座れば目の前は、手狭な感じのキッチン。お目当ての魚は、家庭用らしきグリルで一つひとつ丁寧にジューっと焼く。
だから混んでいる時は時間がかかる。最初は「えっ、大丈夫?」とその環境に驚いたものだ。何しろ家庭のキッチンとそう変わらない。でも、そこから生み出される定食は実に美味しく、どこか家庭的な味だった。
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毎日外食すると、いくら朝・夜を家で食べる努力をしても胃は疲れてくる。そんな時に、外で食べる素朴な味、なかでも、ご飯とおかずと味噌汁という3セットは体も心もほっとさせてくれる。 いつしか、毎日家に帰るように、この店に通い続けるようになった。

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3.鮭の西京漬け
私がよく頼んだメニュー、それは『鮭の西京漬け』。西京味噌の塩梅が調度よく、魚の身もホロホロとして、何よりジューシー。ご飯と味噌汁はもちろん、豆腐とおしんこがついてくる。それで、800円〜900円って安っ!1000円強のランチが多い原宿では、貴重な存在だ。
こんな美味しい魚定食にはなかなか出会えない、と実は今でも思っている。

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そして、何度も通ううちに、顔を覚えてもらい、自然とママさんたちと会話するようにもなった。
「今日のおすすめは?」「暑いですねぇ」「あそこに新しいお店が出来ましたね」「きゅうりは抜いておいたよ(私が嫌いなのを覚えてくれている)」から始まり、「孫がかわいいのよ」「このお店だけはなんとしても続けていきたいと踏ん張ってはいるけれどねぇ」「最近足が悪くて病院に行ってきて…」といったプライベートトークまで。
時には私の人生相談にものってくれた。
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女将さんが原宿に店を構えたのは10代の時だという。ガムシャラに走り続けてきた…と人生の端々を少し聞きかじっただけでも、相当なご苦労があったのだと想像できる。そんな方を目の前に、私も"何か"を感じずにはいられない。
そして、何十年もの間、このランチ激戦区で美味しいご飯を提供し続けているそのパワーに敬服するのだ。
これぞ、まさに『昔ながらの定食屋』。そこには、変わらない味と人情と隠れた努力がある。

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4.3年振りの再訪

仕事を変え原宿から離れたが、先日3年ぶりにお店を訪問した。
「こんにちわ。お久しぶりです〜」と挨拶したら「あら、びっくりしちゃった!」と顔を覚えてくれていて、おしんこをきゅうり抜きで出してくれた。

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店にはママさん一人。
「◯◯さんは?」と一緒にいた男性のことを聞くと、体調を崩してお店に立てないのだという。
「もう私一人でやっていくしかないからね」と。そしてこの間、常連さん達がお店に集まり、還暦祝いをしてくれたのだそう。プレゼントの赤いちゃんちゃんこを着て60周年のお祝い……。
えっ!60周年!!? 女将さん一体おいくつ?まだまだ現役でご活躍。いつまでも変わらない姿と味で私たちを楽しませてほしい。
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その土地に根ざし、訪れた人をちょっぴり幸せにする定食屋。やはり、なくてはならない存在だ。

田中恵子(フードライター)
編集プロダクション、WEB制作会社を経てフリーランスに。フード、ファッション、介護などの媒体で、取材・執筆・編集を担当。食べることが大好きで、フード系の取材は多い月で30件にも及ぶ。最近では横浜の農を普及する「はまふぅどコンシェルジュ」を取得。月刊誌「カフェ&レストラン」(旭屋出版社)では、野菜がおいしいお店を紹介する『VegiLove』を連載中。
http://www.asahiya-jp.com/cafe_res/

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